
農薬を使う慣行栽培と減農、無農薬の有機・自然栽培 この2つが担うもの――日本の農業の未来を考える
「農薬を使う農業は悪なのか」。そんな問いの前に、一度立ち止まってみませんか。慣行栽培と有機・自然栽培が、それぞれ何を担っているのか。その違いを知ることが、日本の農業の未来を考える第一歩になると思います。
慣行栽培と有機・自然栽培が担うもの――日本の農業の未来を考える
「農薬を使う農業は悪なのか」。そんな問いの前に、一度立ち止まってみませんか。慣行栽培と有機・自然栽培が、それぞれ何を担っているのか。その違いを知ることが、日本の農業の未来を考える第一歩になると思います。
「どちらが正しいか」の前に、「何を担っているか」
元築地の八百屋仲卸として、毎日たくさんの野菜と、それを作る人たちを見てきました。そこで強く感じるのは、慣行栽培と有機・自然栽培は「勝ち負け」で語るものではなく、それぞれが違う役割を背負っているということです。
今日はこの二つを「何を担っているのか」という視点で比べ、日本の農業の未来を一緒に考えてみたいと思います。
二つの栽培が担っているもの
慣行栽培が担うもの:毎日の食卓の「安定」
化学肥料や農薬を基準の範囲内で使いながら、安定して収穫する方法です。担っている最大のものは「安定供給」だと私は思います。天候や病害虫に左右されにくく、毎年ほぼ同じ量と品質の野菜が、手の届く価格で並ぶ。市場の現場にいた立場から言えば、この「当たり前」を守ることがどれほど大変か、身にしみています。家計を預かる人にとって、価格が安定していることは、そのまま安心につながります。
有機・自然栽培が担うもの:土と環境、そして「次の世代」への視点
有機栽培は化学合成の肥料や農薬に頼らず、有機質の資材などで育てる方法。自然栽培は、肥料や農薬を使わず、土そのものの力や土壌の菌の働きを引き出して育てる方法です。担っているのは、土や環境への負荷を減らし、長い目で農地の力を育てていこうという挑戦だと思います。
研究の面でも、2014年にBarańskiらが発表した系統的レビューとメタ分析では、有機栽培の作物は抗酸化物質の濃度が高く、カドミウム濃度や農薬残留の検出頻度が低い傾向が報告されています。ただし、品種、土壌、収穫時期などで結果は変わるため、「有機だから必ず優れている」と言い切れるものではありません。
そしてこの栽培を続ける農家は、土と向き合いながら試行錯誤を重ねる、職人であり研究者でもあります。その知恵や技術は、日本の農業全体の財産になり得ると感じます。
二つの間にある「現実の壁」
では、全てを有機・自然栽培に切り替えれば解決するのでしょうか。
2012年にSeufertらがNature誌に発表した比較研究では、有機栽培の収量は慣行栽培より平均的に低い傾向が示されています(差は作物や条件で大きく変わります)。同じ面積から採れる量が減るなら、今と同じ量を確保するには、より広い農地や、より多くの担い手が必要になります。
ところが日本は、農地面積が長期的に減り続け、農業を担う人の高齢化も進んでいます。この条件で一気に全面転換を進めれば、供給が不足するリスクがあると私は考えます。国の「みどりの食料システム戦略」も、2050年までに有機農業の取組面積を農地全体の25%に広げるという目標で、「全てを有機に」ではなく、段階的に割合を増やす道を描いています。
どちらか一方だけでは、日本の農業は立ち行かない。ここが、この話のいちばん難しいところです。
慣行栽培だけで未来を支え続けられるのか、という問いもあります。環境への負荷や、資材の価格・輸入への依存といった課題とも向き合う必要があります。
未来の日本の農業を、一緒に考えたい
だからこそ、私はこう問いたいのです。
- 安定して食べ物を届ける力と、土や環境を守る力を、どう両立させるのか。
- 少なくなっていく担い手と農地で、どの割合を、どの方法で担っていくのか。
- 農家の工夫や哲学に、私たち消費者や流通は、どんな形で応えられるのか。
答えは一つではありません。ただ、農業の未来は農家だけが決めるものではなく、毎日の買い物で食べ物を選ぶ私たちの行動の積み重ねでも、少しずつ形づくられていくと思っています。
おわりに
予算が厳しい週は慣行栽培の野菜をしっかり食べる。余裕のあるときは、応援したい農家の有機・自然栽培の野菜を選ぶ。そうした一つひとつの選択が、10年後、20年後の日本の農業の姿に、静かに影響していくのかもしれません。
あなたは、どんな日本の農業を、次の世代に残したいですか。
参考資料
- Seufert V, Ramankutty N, Foley JA (2012) Comparing the yields of organic and conventional agriculture. Nature 485(本文:有機栽培の収量は慣行栽培より平均的に低い傾向)
- Barański M et al. (2014) Higher antioxidant and lower cadmium concentrations and lower incidence of pesticide residues in organically grown crops. British Journal of Nutrition(本文:有機栽培の作物の抗酸化物質・カドミウム・農薬残留の傾向)
- 農林水産省「みどりの食料システム戦略」(2021年)(本文:2050年までに有機農業の取組面積を25%に拡大する目標)
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