
精神科認定看護師・渡部貴子さんが語る「制限を超えていける社会」 の実現とは
桂乃貴メンタルヘルスケア株式会社代表取締役で、精神科認定看護師の渡部貴子さんは、病気や障害によって人の可能性を決めつけない支援を続けています。精神科訪問看護は、退院後の治療継続だけでなく、生活の立て直しやリハビリ、復職、地域での再出発まで支える仕事です。支援の質、理解し合える仲間と働く意味、「制限を超えていける社会」への思いを聞きました。
渡部貴子さんは、精神科・認知症領域に対応する訪問看護を地域で続けてきました。病院での長期入院から地域生活へと支援の重心が移る一方、受け皿となる地域の体制や、支援者の理解は十分とは言えないと感じています。
事業者の数が増えること自体は歓迎すべき変化です。しかし、精神科訪問看護は「参入すればできる仕事」ではありません。利用者の可能性を狭めず、病気だけで人を決めつけず、地域での生活を支える専門性が必要です。
退院後の生活を地域で支える時代へ
精神科医療では、病院で急性期の治療を行い、その後は地域で療養を続ける方向へ変化してきました。長期入院によって社会との接点を失うことや、本人の生活の選択肢が狭まることも課題として意識されるようになっています。
一方で、退院後の暮らしを支える地域側の準備は、変化の速度に追いついていません。服薬や体調管理だけでなく、生活の立て直し、リハビリ、復職、地域とのつながりまで、継続して支える人材と仕組みが必要です。
渡部さんたちの役割は、退院後も治療を続けられるように関わり、回復の過程を本人と一緒に進むことです。仕事へ戻る人もいれば、地域の一員として新しい生活を始める人もいます。訪問看護は、病状を見るだけではなく、その人が再び生活の主体になる過程を支える仕事です。
支援者の決めつけが、本人の制限になる
精神疾患のある人の中には、「自分は朝起きられない」「仕事はできない」「結婚もできない」「幸せにはなれない」と、多くの可能性を諦めている人がいます。症状や周囲からの見方によって、できないことばかりを自分に言い聞かせてきた人もいます。
だからこそ渡部さんは、支援者が先に可能性を閉じてはいけないと考えます。「この人は変わらない」「この人には無理だ」と決めてしまえば、本人が次の一歩を選ぶ余地まで小さくなるからです。
「この人は変わらないだろうで終わらせるのではなく、この人も変わるだろう、いつ変わるのだろうかと思う。人を括らず、可能性を勝手に縮ませないことを大事にしています」
この考え方は利用者だけに向けられたものではありません。看護師や作業療法士など、一緒に働く職員に対しても同じです。面接では実力や才能を見抜けなかった人が、現場で思いがけない長所を発揮することもあります。目の前の一場面だけで人を決めないことは、支援にも組織づくりにも共通する判断基準です。
事業者が増えることと、支援の質が上がることは同じではない
精神科訪問看護を始める事業者が増えたことについて、渡部さんは率直に喜んでいます。地域で支える担い手が増えなければ、必要な人に支援が届かないからです。
ただし、収益を得やすい領域として安易に参入し、十分な理解がないまま関わることには強い危機感を持っています。精神科領域を軽く扱った支援によって傷つくのは、利用者です。関わり方によって新たな不信感や傷つきが生まれれば、地域に戻ることを諦めたり、再び孤立したりする可能性があります。
必要なのは、件数をこなすことではなく、対価を受け取る専門職として責任を持てる支援かどうかを問い続けることです。精神科看護を学び直し、その人の生きることを支える仕事として理解し、実践できる人を増やしたい。これが渡部さんの願いです。
一度の研修だけでは、現場は変わり続けられない
渡部さんは、精神科訪問看護に必要な研修の講師も務めています。講義を聞いた受講者は、その場では新しい見方に気づき、納得して帰っていきます。しかし職場に戻ったとき、周囲の同僚や上司に同じ理解がなければ、学んだ方向へ実践を変えることは難しくなります。
個人の気づきだけに変化を任せると、忙しい現場の中で元のやり方へ戻りやすくなります。渡部さんが「理解し合っている仲間の中で仕事をすることが大事」と話すのは、そのためです。
- 精神科領域の特性を、個人ではなく職場全体で理解する
- 利用者を病名や過去の行動だけで決めつけない
- 研修で得た視点を、日々の判断に繰り返し結びつける
- 支援の件数だけでなく、本人の生活と可能性を広げているかを考える
研修は変化の入口にはなりますが、ゴールではありません。学んだ人が孤立せず、同じ方向を向く仲間と実践を続けられる環境があって、初めて支援の質として定着します。
「制限を超えていける社会」を訪問看護からつくる
桂乃貴メンタルヘルスケア株式会社が掲げるビジョンは、「制限を超えていける社会の実現」です。制限は、本人が自分に課すものだけではありません。家族、地域、社会、支援者の思い込みや暗黙の前提も、人の選択肢を狭めます。
精神科訪問看護は、その制限を一つずつ緩め、その人らしい生活の可能性を広げるための手段です。症状があることと、人生の希望がなくなることは同じではありません。支援者が可能性を信じ、地域での生活を一緒に組み立てることで、本人が選べる未来は変わります。
精神科訪問看護の質を高めるために必要なこと
精神科訪問看護の質は、資格や研修歴だけでは測れません。利用者を一人の生活者として見ているか。できないと決めつけず、変化の可能性を信じているか。職場全体でその姿勢を共有し、実践し続けられているか。渡部さんが問い続けているのは、その部分です。
地域で暮らす人を支えるためには、事業者の数と同時に、支援の質を育てる必要があります。精神科訪問看護における、現場での共通理解へ変えていくこと。その積み重ねが、病気や障害によって人生の可能性を決めつけられない社会につながっていきます。
KONOKI | 桂乃貴メンタルヘルスケア株式会社
ハートフル訪問看護ステーション中目黒については、以下よりご覧いただけます。
インタビュー対象者
渡部貴子さん
桂乃貴メンタルヘルスケア株式会社代表取締役 / 代表取締役
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